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なんの穴かはナイショ

スタッズのびっしり埋め込まれた、真っ黒な10センチのハイヒールシューズ。

これを履いてどこに行ったかしら?あのときのデートでは、これに黒のサテンのドレスと革のコートを合わせたっけ。同じく鋲の打ち込まれた小さなバッグとコーディネートするのも好きだったな。その削れた赤い靴底に必死に舌を這わせる無様な男を眺めながら、わたしはその靴と出掛けた甘い日々を思い出す。

大好きだったけど、お別れするときが来るなんて。

美しいハイヒールの命は、儚い。そのレザーソールは硬いアスファルトに削られ、ほんの少しの溝も細いヒールには容易く傷を残し、わたしの汗を吸った革は一度馴染んだ後には形を崩すばかり。世界はこの華奢なハイヒールには過酷すぎる。

大好きなハイヒールとのお別れのセレモニー、そんな素晴らしい瞬間に立ち会えて、おまえ、幸せね!この靴が靴としての天寿を全うできるように、最期のお仕事の手伝いをおまえにさせてあげる。

その大好きだったハイヒールに注いだソレ、一滴も零さずに飲みなさい。私の足のエキスと、足に馴染んだ革の味、すべてが抽出されるようにたっぷり注いであげる。おまえがきちんと全部飲み干したら、その靴だって報われるんじゃない?

注がれた黄金色の液体を必死に飲み下すおまえと、おまえが持つもうわたしにとってゴミ同然の価値になってしまったハイヒールを眺めながら、次はどんな靴を買おうか考える。どんな靴で、どこへ行こうか。素敵な靴は、足の数だけでは少なすぎる。そうして私のお供に疲れた靴たちは、またこうやって供養してやればいいんだから・・・


[ 2018-10-19 (Fri) 19:36 ]  
   Category:ふつうのはなし